
問題社員対応とは
現代社会では、会社の規模の大小にかかわらず、いわゆる「問題社員」はどこの会社にも存在している可能性があります。例えば,会社の指示に従わない社員、遅刻欠勤を繰り返す社員、能力に問題のある社員(ローパフォーマー)、協調性のない社員、あるいは社内で窃盗、横領行為等に及ぶ社員などです。問題社員の問題が顕在化すると、他の社員の退職、意欲の低下など,職場環境の悪化、生産効率の低下等を誘発することとなり,悪影響を及ぼしかねません。そのため、問題社員対応にあたっては,着地点を見据えたうえでの適切な対応を早期に図る必要があります。
問題社員を放置するリスク
問題社員を放置すると,以下のようなリスクが生じることになります。
1 会社に経済的な損害が生じる
能力不足(ローパフォーマー)や協調性のない社員を放置した場合,重大なミスが生じることにより,会社に経済的な損害が生じるリスクが高まります。社内での問題であればまだしも,取引先や顧客に迷惑をかけるほどの大きなミスの場合,会社の信用を大きく毀損することになりかねません。
2 他の社員に悪影響をもたらす
問題社員の能力不足や,社内ルールに従わないことにより,他の社員の労働時間・負担が増える,他の社員のモチベーションを低下させる,ハラスメントの被害を受けた社員が退職してしまうといったように,問題社員が存在することにより,他の社員への悪影響は計り知れないものがあります。実際,相談に訪れる会社担当者の方が問題社員の対応を求めるのは,この理由が最も大きいと言っても過言ではありません。従業員は会社の大事な資産ですから,他の従業員に悪影響を与えるということは,会社の生産性の低下,ひいては会社組織そのものの崩壊につながりかねないと言えます。
問題社員の類型
問題社員と一言で言っても,様々な切り口から考えられます。以下は,典型的な問題社員の類型です。
1 能力不足・適格性が欠如する社員(仕事ができない・ローパフォーマー社員)
ミスを連発する,仕事が遅い,効率が悪い,仕事が取れないなど,勤務成績が著しく不良な社員
2 職場規律違反・勤務態度不良の社員(不誠実・協調性不足)
無断欠勤や遅刻、職務放棄など職務怠慢を繰り返す社員
3 会社の命令や指示に従わない・違反する社員(会社のルールを守らない)
通常の業務に関する指示・命令、時間外労働命令や休日労働命令、あるいは出張命令など、上司の指示・命令に違反する社員
4 非違行為を行う社員(犯罪行為・モラル欠如)
横領、背任、会社備品の窃盗・損壊、上司や同僚への暴行・暴言などの非違行為,インターネットなどによる会社への誹謗中傷、機密情報の漏えい、取引先を奪って競合他社を設立するなど誠実義務に違反する社員
弁護士による問題社員対応
1 解雇の選択は慎重に
問題社員対応の着地点は解雇に限りませんが、解雇をしたいと考える企業は非常に多いといえます。しかしながら、解雇通告をすることによって問題社員の問題を一気に解決できることは基本的にはありません。日本では,従業員の解雇は極めて厳格な法規制が施されており,解雇することは極めて困難です。
(解雇) 第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。 |
これまでの労働裁判例の蓄積により,解雇には合理的な理由が必要であるとのルールができあがりました(解雇権濫用法理)。上記の労働契約法第16条は解雇権濫用法理を明文化したものです。
使用者側が,労働基準監督署で解雇について相談し,「こんなひどい事案なのだから解雇できて当然だと思う」と相談し,監督所から前向きな返事を得たことを理由に,「解雇してもいいですよね」ということで相談にいらっしゃる方が稀にいますが,このような発想は危険です。まず,前述のとおり解雇の有効性を判断するのは労基署ではなく裁判所です。また,「こんなひどい事案」が,第三者が見ても,本当に使用者が述べているとおりの「ひどい事案」であるのか,終局的には,双方の主張立証を経た上での事実認定を経なければわかりません。解雇と一口に言っても,後に無効とされるリスクがある以上,慎重に判断する必要があります。
問題社員対応を一歩間違えると、解雇無効やパワハラという形で裁判となり、場合によっては1000万円といった規模の未払賃金(バックペイ)や損害金の支払い命令が出されかねず、その場合の会社経営へのダメージは計り知れません。安易な対応は、かえって会社を苦しめる結果ともなりかねませんので、正しい手順に沿った適切な対応が求められます。
ここで、経営者の方から,「どうしてこんなにも解雇規制が厳しいのか」,「問題社員すら守る日本の法律は厳しすぎる。ひどい仕打ちを受けているのはむしろ会社なのに」といった声を聞くことがあります。確かに,厳しすぎる面があることも否めないところです。
裁判所は,一般的に、解雇の事由が重大で、他に解雇回避の手段がなく、かつ労働者側に宥恕すべき事情がほとんどないといえるような場合にのみ解雇の有効性を認めている状況です(中途採用のローパフォーマーの解雇などの場合は当てはまらない場合もあります)。このような現状をしっかりと認識した上で,個々のケースに応じた慎重かつ入念なプロセスを踏まえた対応が必要となります。
2 方針決定
把握した事実関係に基づいて,今後の対応方針を決定します。大まかな対応としては,人事上の措置(配置転換・降格等),懲戒処分(懲戒解雇を除く),退職(退職勧奨,普通解雇,懲戒解雇等)などです。例えば,解雇を念頭に方針を進める場合,法的紛争になった場合の見通しや他の従業員への波及問題等を踏まえ早期解決を目指す若しくは徹底して争う,といった採るべき対応を決定します。解雇事件における主要な争点は、解雇事由の有無,適切な手続きが取られているか等ですが,解雇事由の有無が主要な争点であることは間違いありません。極めて法的な問題であるため,時系列等に沿って詳細に検討する必要があります。解雇事由までは認められない場合には,退職勧奨や配置転換等,別の対応を検討する必要があります。
3 交渉、労働審判、訴訟
決定した方針に従い、従業員との交渉等を行うことになります。交渉の仕方によって解決に至る,至らない場合もありますし,本格的な争いとなった場合には、労働審判、訴訟等で会社側の正当性を徹底して主張・立証することになります。(労働審判・訴訟において和解の選択肢を取ることもあります。)
問題社員への具体的な対処法
1 能力不足・適格性が欠如する社員(仕事ができない・ローパフォーマー社員)
定期的な面談,社内外の研修の受講,配置転換,業務日報による業務報告などを通じて,相当期間の指導を行い,改善の機会を提供しなければなりません。これらの過程を経ることなく,いきなり解雇を選択することは悪手です。この過程を経ることにより,該当の社員との間で,会社として期待する水準,パフォーマンスの悪さを具体的に共有することになります。そのような改善の機会を与え続けてもなお改善がみられない場合,退職に向けたプロセスを検討せざるを得ませんが,それでも解雇の選択肢の前に,退職勧奨を行うべきです。
なお,上記対応は,一定の能力に着目して入社した中途社員の場合は必ずしも当てはまるものではありません。求められた能力が発揮されていない場合には,契約内容の履行がなされていない(つまり債務不履行)として,退職勧奨を検討します。
ただ,よく問題となるのは,「求められた能力」が採用の時点でどれだけ労使双方の共通認識となっていたか否かです。採用の時点では,直ちに即戦力まで求められていたとは言えないことを理由に,中途採用社員の解雇が無効となった事例があります(東京地裁平成28年8月30日判決・ウエストロー・ジャパン)。
2 職場規律違反・勤務態度不良の社員(不誠実・協調性不足)
遅刻や欠勤を繰り返す社員に対して,ヒアリングを実施した上で,口頭で注意・指導を行い,改善されない場合には,厳重に注意指導を行わなければなりません。書面による厳重注意を行っても改善されない場合には,懲戒処分を検討することになります。その場合でも,最初の懲戒処分は最も軽い譴責とし,改善がなければ徐々に重い処分とします。遅刻や欠勤が理由となり,取引先との取引が停止するなど,企業側に重大な損害が発生したような場合には,最初から重い処分を課すことも選択肢となります。
その後も改善が見られず,その都度注意指導や懲戒処分を繰り返し行ってもなお,改善が見られない場合には,退職勧奨の上解雇処分を選択することもあり得ます。
3 会社の命令や指示に従わない・違反する社員(会社のルールを守らない)
業務命令違反は重大な問題行為と捉えられ,「2 職場規律違反・勤務態度の不良」の問題と複合的に発生することが少なくありません。
業務命令違反については懲戒処分を検討することになりますが,業務命令を下す前に,その根拠・権限があるかどうか(配置転換命令,出向命令等は明確な根拠が必要です),就業規則や雇用契約書を確認する必要があります。根拠があったとしても,従業員にとってあまりにも不利益が大きい命令,退職に追い込もうとする目的が透けて見える場合などは人事権行使の濫用となり,その業務命令自体が違法となります。
また,仮に業務命令を拒否された場合,処分等を行う必要がある場合は,その業務命令については書面で明確に行うべきです。書面ではない口頭による命令の場合,そもそもそれが業務命令であったのかどうかといった,無用な争いに巻き込まれることにもなりかねません。
4 非違行為を行う社員(犯罪行為・モラル欠如)
非違行為を行う社員に対しては,その非違行為の程度によって注意指導から懲戒解雇まで対応方法は異なりますが,まずは事実関係を正確に把握し,当該行為を行った証拠(物的証拠,証言など)を固めることが重要です。当該従業員から言い分を聞くことも当然重要ですが,何の証拠もないまま弁明させたところで,否認されればそれ以上の追及の余地がありません。したがって,非違行為を行う社員に対する対応においては,アプローチの仕方に注意する必要があります。
弁護士に依頼するメリット
以上のとおり,問題社員を放置することは会社にとって深刻な結果を招き,他の社員の意欲等に大きく影響することから,放置することが許されない問題であると言えます。問題社員対応にあたって重要なのは、従業員の問題行動への注意・指導のプロセスであり,これができていないと,その後どのような対応方針を取ったとしてもうまくいかず,逆に,無用な紛争を招いてしまうことがあります。
さいたまシティ法律事務所では、配置転換、懲戒処分、退職勧奨、場合によっては解雇に至るまでのスキームを個々のケースに応じてアドバイスをご提供することが可能です。これにより、トラブルのリスクを最小限にとどめることが可能です。
また,すでに起きてしまった労働問題への対応だけではなく、将来のリスク回避のために現在起きている問題を二度と生じさせないように取り組むことが経営強化につながります。さいたまシティ法律事務所では,問題発生の根本を探求し、就業規則の整備・改善や、実際上の労務運用までリスク回避策を積極的に提案しています。問題社員の対応よりも,問題が発生しない土壌を作ることが、会社や従業員にとって何より望ましいものであり,経営の安定化につながります。
問題社員でお悩みの際には、無用なトラブルが拡大する前に是非ご相談ください。
お問い合わせはこちらから

Last Updated on 2024年12月16日 by roumu.saitamacity-law
![]() この記事の執筆者:代表弁護士 荒生祐樹 さいたまシティ法律事務所では、経営者の皆様の立場に身を置き、紛争の予防を第一の課題として、従業員の採用から退職までのリスク予防、雇用環境整備への助言等、近時の労働環境の変化を踏まえた上での労務顧問サービス(経営側)を提供しています。労働問題は、現在大きな転換点を迎えています。企業の実情に応じたリーガルサービスの提供に努め、皆様の企業の今後ますますの成長、発展に貢献していきたいと思います。 |