懲戒処分とは?種類・法的根拠・選択基準・手続きについて弁護士が分かりやすく解説

懲戒処分とは?

 懲戒処分とは、企業が従業員の社内秩序違反行為(問題行動)に対して科す制裁罰のことをいいます。具体的には、譴責(けんせき)、訓告、戒告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇といった内容が就業規則で定められています。懲戒処分は、企業が企業秩序を維持・回復させるために不可欠な制度です。

 懲戒処分の目的は、問題行動を起こした本人に制裁を加えること並びに従業員全員に対し、懲戒処分を受けた従業員の問題行動が好ましくない行為であることを明確に示すことによって、企業秩序を維持回復させることにあります。

 懲戒処分は、企業秩序違反者に対し使用者が行う特別の制裁罰ですので、従業員10名以上の事業所が懲戒制度を設ける場合は就業規則にその内容を明記することが必要とされています。このように、就業規則に懲戒事由が明記かつ従業員に周知していなければ懲戒することはできず(労働基準法89条9号、労働契約法7条)、懲戒処分が可能である場合でも、「当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効」とされる場合があり、懲戒権が無制限のものではないことが明確となっています(懲戒権濫用法理・最判平成15年10月10日、労働契約法第15条)

懲戒処分の種類と基準

 前述のとおり、労働基準法は事業主が制裁の定めをする場合、「その種類及び程度に関する時効」を就業規則で定めなければならないとしています(労基法89条9号)。懲戒処分の内容は、一般的には以下の6種類が挙げられます。

⑴ 譴責(けんせき)・訓告・戒告

 譴責(けんせき)は、文書で厳重注意し、従業員の将来を戒める懲戒処分です。通常は始末書を提出させます。訓告も同様の意味内容で用いられることがありますが、主に公務員において設けられている制度です。戒告は、始末書の提出を伴わない場合が多いようです。

 これらはいずれも労基法の概念ではないため、企業によって意味内容が異なることがありますが、いずれも概ね同じ意味であると考えて差し支えないでしょう。懲戒処分としては最も軽いものであり、従業員に対する「指導」を主な内容とし、経済的な不利益を伴うものではありません。

⑵ 減給

 従業員の給与を減額する処分です。減給は、労働者保護の立場から法律上の限度額が設けられており、「一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない」(労基法91条)とされています。

 要するに、1回の問題行動に対する減給処分は、1日分の給与額の半額が限度額であることを意味します。

 過去、労基法91条の後段「総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない」のみを捉えて、1回の問題行動を対象に、1ヶ月分の賃金の10分の1を減給としたケースに遭遇したことがありますが、このような減給は明らかな違法です。

⑶ 出勤停止

 問題行動に対する制裁として、従業員に一定期間出勤を禁じ、その期間の給与を無給とする処分です。出勤停止となる問題行動の典型としては、会社内での暴力行為やハラスメント行為などがあげられます。例えば、30日の出勤停止という場合、30日分の給与が支給されないことになるため(出勤停止の日数のカウントは労働日のみです)出勤停止は減給処分よりも本人が受ける経済的制裁の程度が大きくなります。

 なお、出勤停止期間中無休となることは、制裁としての出勤停止の当然の結果であるため、労基法91条の制限を受けることはありません(昭和23年7月3日基収第2177号)。出勤停止の期間は法律上の上限はありませんが、通常は就業規則で上限が決められています。7日や10日程度とされるケースが多いようです。

 なお、出勤停止と自宅待機命令の違いが問題となることがよくありますが、出勤停止は懲戒処分であるのに対し、自宅待機は業務命令であり、自宅待機期間中も原則として給与が支払われるという点で違いがあります。自宅待機命令は、問題行動が起こった際、当該従業員を出社させるのは不適当であり、問題行動を調査する必要がある場合などに命じられます。

⑷ 降格

 従業員の役職や資格を下位のものに引き下げる懲戒処分です。降格の懲戒処分の場合は、出勤停止処分よりも、さらに当該従業員が受ける経済的な影響は大きくなります。その理由は、降格すると役職給などが下がるため、給与が減るためです。

 出勤停止処分の場合、出勤停止の期間が終われば元の給与に戻りますが、降格処分で役職手当が下がった場合は、今後も下がった給与が支給されることになります。

⑸ 諭旨解雇(諭旨退職)

 従業員に対して退職届の提出を勧告し、退職届を提出しない場合は懲戒解雇する懲戒処分です。

 諭旨解雇は、懲戒解雇が従業員にとって不利益が大きいことから、退職届提出の機会を与えるものです。企業によっては諭旨解雇若しくは諭旨退職と呼ばれることもありますが、基本的には同じ意味でしょう。

⑹ 懲戒解雇

 懲戒事由があることを理由に従業員を解雇する懲戒処分です。懲戒解雇の場合、退職金の全部または一部が支払われないと定められている場合が多く、解雇予告手当も通常は支払われないでしょう。

 ⑸の諭旨解雇または諭旨退職の場合は、退職金について全額支払うとしている会社が多くなっていますが、この点が諭旨解雇と懲戒解雇の大きな違いです。また、諭旨解雇の場合は当該従業員に退職届を提出させるという点で、後の紛争の予防にも資するという意味があるようです。

懲戒処分の対象となるケース・具体例(懲戒事由)

⑴ 勤怠不良(無断欠勤、遅刻、早退など)

 勤怠不良とは、遅刻や早退、私用外出、欠勤などこれらを総称する概念です。勤怠不良とはいっても、様々な理由が考えられるため、これらの事由があったからといって直ちに懲戒処分の対象となるかはケースごとに判断する必要があります。

 勤怠不良は、それが繰り返される場合でも、通常、まずは軽微な懲戒処分から始めるべきですが、一般的には、2週間の無断欠勤で懲戒解雇とする就業規則が多いように見受けられます。

⑵ 機密情報の漏洩

 機密情報の漏洩については、それが企業におって重要な情報であり、かつ事業主の損害または業務の正常な運営に多大なる支障をきたすという結果をもたらした場合は、懲戒解雇とすることは十分に考えられます。

⑶ ハラスメント行為

 パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、マタニテイハラスメント等ハラスメントの種類を問わず、就業規則にハラスメント行為を懲戒処分の対象と定められているケースが多いと思われます。

 ハラスメント行為の内容、被害者の意向、過去の懲戒歴等を踏まえてどの懲戒処分を選択するか検討することになります。

⑷ 会社の金員を横領するなどの業務に関連した犯罪行為

 業務に関連した横領、詐欺行為などは原則として懲戒解雇事由とされているケースが多いと思われます。

⑸ その他の就業規則違反

 経歴詐称、職務懈怠、業務命令違反、服務規律違反等が考えられます。また、業務とは直接関連のない、私生活上の刑事事件(強制わいせつ、痴漢、詐欺、酒気帯び運転、薬物所持・使用)を起こした場合、「会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければ」懲戒解雇できない(最高裁昭和49年3月15日判決)とされています。

懲戒処分を実施する手順

 大まかな流れとして、①就業規則の確認(有効な懲戒処分の根拠規定が存在するのか)、②懲戒処分対象行為の記録、証拠の収集(第三者からの聞き取り等の事実確認)、③対象者への弁明の機会の付与、④処分内容の決定、⑤懲戒処分通知書の交付、という流れを経ることになります。

 ③の本人への弁明の機会は必ず付与する必要があります。弁明の機会の付与の有無は、後日懲戒処分の有効性が争われたときには必ず問題となり、付与していなければ懲戒処分の有効性に疑義が生じかねません。 

 また、就業規則において、懲戒処分をするには「懲罰委員会」や「賞罰委員会」を開催するなどと明記されている場合には、これを開催したうえで懲戒処分を決定する必要があります。

 そして、懲戒処分は必ず「懲戒処分通知書」といった書面によって行います。口頭による処分では、それが従業員のどのような行為に対する処分なのか、あるいは単なる指導・注意なのか制裁罰としての懲戒処分なのか、など、あいまいな点を残すことになります。

 過去、長年注意指導してきた従業員を懲戒解雇したいという相談を受けることがありますが、残念ながらその注意指導に関する書面が残っていることは稀で、経営者としては訓告処分のつもりであったとしても、その文書さえ残っていないケースが多いです。懲戒処分については後々事実関係が争われることが多いため、「いつ、どこで、誰が、何を、どうした」という5W1Hを特定した文書を作成することが不可欠です。

 懲戒処分を行った場合、規律違反によって乱れた企業秩序の維持・再発防止のためにも、公開を必要とする場面は想定されるところではあります。しかし、仮に公開するにしても、客観的事実のみを公表し、氏名は記載しない、外部への公開はしない、といったことが求められます。氏名を記載して公表した場合はプライバシー侵害、懲戒処分の前提となった事実関係に誤りがあった場合は、名誉毀損の問題となりうるので、公表を行う場合は細心の注意が必要です。

 なお、懲戒解雇の場合は退職金の不支給について定めているケースが多いと思われます。ただし、就業規則に不支給の定めがあっても、裁判所は、退職金は在籍中の功労に報いる功労報償的性質だけでなく、賃金の後払いの性質ももつものとして、「当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為」(大阪地判平成21年3月30日など)がある場合に限り不支給を認めるなど、懲戒解雇が有効であっても必ずしも全額の退職金の不支給が認められるわけではないことは留意する必要があります。

懲戒処分の有効性と注意点

 前述のとおり、懲戒処分を行いうる事情が認められるとしても、適正な手続きを踏まなければその懲戒処分そのものが違法となることがあります。

 懲戒は就業規則に書いてあることしかできません。しかし、あらゆる懲戒事由をすべて列挙してあらかじめ記載することは困難であるため、最後に「その他この規則および諸規定に違反し、または前各号に準ずる行為を行ったとき」などの包括条項を定めておくなどの必要もあります。この包括規定があれば、懲戒事由が就業規則に定められていないから処分できない、ということはまず起きないでしょう。

 また、労働契約法第15条において、「当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効」とされています(懲戒権濫用法理)。要するに、当該懲戒事由と懲戒処分とのバランスが求められるのであって、例えば1回の暴言で即懲戒解雇とはいかないというわけです。

 さらに、1回の問題行動に対し、2回懲戒処分を行うことはできません(二重処罰の禁止)したがって、処分歴のある従業員に再度懲戒処分するに際しては、過去の問題行動を今回の懲戒処分の対象としないように留意しなければなりません。

 懲戒処分のいわゆる「相場」の参考としては、一般社団法人労務行政研究所「企業における懲戒制度の最新実態」や人事院「懲戒処分の指針について」(平成12年3月31日職職-68 最終改正令和2年4月1日職審―131)などが参考になるでしょう。

よくある質問

Q 懲戒処分を行った後に訴訟リスクを最小限にする方法はありますか。

 既に懲戒処分を行った段階であれば、無効を主張されるか否かは当該従業員次第です。しかし、処分後に事実関係の誤りや手続き違反などが見つかった場合は、懲戒処分を撤回するなどして、自発的に紛争の可能性を回避することも考えられます(ただし、懲戒解雇の場合は民法540条第2項により使用者側の意向で一方的に撤回することはできません)

Q 懲戒処分を決定する前に従業員を出勤停止にすることは可能ですか

 懲戒処分としての出勤停止を先に行えば、その後懲戒処分を行うことは二重処罰の禁止に該当し、行うことはできません。

Q 懲戒処分対象者の情報を社内で公表することは可能ですか

 企業秩序の維持・再発防止のために公開を必要とする事は考えられますが、客観的事実のみの公表にとどめ、氏名を公開しない、取引先には通知しない、被害者がいる場合の配慮、公表の期間等に留意する必要があります。公表によって名誉毀損、プライバシー侵害などの新たな法律問題を生む可能性があるためです。

Q 出勤停止中に賞与支給日が到来した場合、賞与を支払わなくても問題ありませんか

 たまたま出勤停止期間中に賞与支給日が到来したことをもって不支給すとすることは原則として認められません。また、過去出勤停止処分を受けた者への賞与を不支給とした労働協約の定めの有効性が争われた事例で、裁判所は当該定めを無効と判断しています。

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以上

Last Updated on 2024年7月18日 by roumu.saitamacity-law

この記事の執筆者:代表弁護士 荒生祐樹

さいたまシティ法律事務所では、経営者の皆様の立場に身を置き、紛争の予防を第一の課題として、従業員の採用から退職までのリスク予防、雇用環境整備への助言等、近時の労働環境の変化を踏まえた上での労務顧問サービス(経営側)を提供しています。労働問題は、現在大きな転換点を迎えています。企業の実情に応じたリーガルサービスの提供に努め、皆様の企業の今後ますますの成長、発展に貢献していきたいと思います。

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