1 就業規則の定義と役割
就業規則とは、賃金や労働時間、解雇や懲戒処分の事由、服務規律の内容など、就業にあたり従業員が守るべき規律を定めるものです。合理的な労働条件を定めた就業規則が従業員に周知されている場合、その就業規則は、従業員の個別の同意がなくても雇用契約の内容になります(労働契約法第7条)。就業規則は、多数の従業員の労働条件を統一的に定めるとの点において、雇用契約書とは異なる機能をもちます。
2 労働基準法における就業規則作成義務の範囲
就業規則の作成は、常時10人以上の従業員を使用する事業場がある会社においては、法律上の義務とされています。労働基準法第89条で、「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない」と定められており、違反した場合には30万円以下の罰金が科されます。ここでいう「労働者」とは、正規雇用、非正規雇用、パートやアルバイト従業員を問わず、会社と雇用契約を結んでいる全ての従業員を対象とします。したがって、例えば正社員が3名、アルバイトが4名の場合でも、合計で10人以上となり、就業規則の作成義務が生じます。派遣社員については、派遣先の事業所ではカウントしません。
一方で、個人事業主(一定の業務の委託を受ける委任(準委任)契約や、仕事の完成(成果物)を求められる請負契約の形式で役務を提供する者)は、就業規則の作成義務が課せられる「労働者」には含まれません。ただし、「労働者」若しくは「個人事業主」か否かは、雇用主との契約の形式や名称だけで決まるものではないため、労働法の適用を免れようとして、従業員を「個人事業主」と扱っても、雇用主との指揮命令関係があるなど、従業員としての実態がある場合は、「労働者」として認定されるので、労働法の適用を受けることになります。
3 従業員10人未満の企業における就業規則の必要性
厚生労働省が発行する「就業規則作成の9つのポイント」においても、「労働条件や職場で守るべき規律などをめぐる事業主と労働者との間の無用の争いごとを未然に防ぎ、明るい職場作りに寄与するという就業規則の役割から考えて、ぜひとも作成しておきたいものです」と、就業規則の作成が推奨されています(就業規則作成の9つのポイント)。
後述のとおり、就業規則作成のメリット・デメリットは、従業員の人数によって変わるものではありません。したがって、従業員10人未満の企業においても、10人以上の企業と等しく、就業規則の作成が求められます。
4 就業規則を作成するメリット
就業規則を作成するメリットとしては、何より、労使間のトラブルの対応についてあらかじめ規律することにより、トラブルの予防につながることが挙げられるでしょう。また、定額残業代や変形労働時間制を導入することで社内の労働時間について柔軟な対応(経費削減)が可能となる、産休や育休制度が構築されていることによって従業員が安心して働ける環境を作ることになる、人事評価や昇給制度が定められていることにより、従業員のモチベーション向上や生産性の向上につながる、助成金の申請が可能となる、といったことが挙げられます。
5 就業規則を作成しないデメリット
就業規則がない場合のデメリットは、労使間トラブルが生じた場合のルールがないため、トラブルに適切に対応ができない、適切な人事権行使(配置転換、異動)ができない、懲戒処分ができない、懲戒解雇の場合の従業員に対する退職基を不支給若しくは返還を求めることができない、私傷病を患った従業員の休職や復職の対応ができない、試用期間の延長ができないといった多岐に渡る点において挙げられます。
また、法的な労使紛争に巻き込まれた場合、裁判所からは、必ず就業規則の有無の確認及び提出を求められます。従業員10人以下の企業の場合、確かに作成義務はありませんので、裁判所に必ずしも提出する必要はなく、提出したからといって有利になるわけでもありませんが、提出できない場合は、企業が述べる言い分の拠り所や根拠がないということになり、裁判所の心証形成にも影響する可能性があります。
6 就業規則作成時の注意点
せっかく就業規則を作成しても、社内の実情を踏まえておらず、内容が形骸化しているケースがあります。例えば、最新の法改正や裁判例の動向が踏まえられておらず、就業規則に効力が認められない条文が含まれているケース、使用者側の一方的な都合や利益のみが強調されており、裁判所で効力が認められる可能性がないと思われるケースや、作成後の従業員の意見聴取の手続が正しく行われていないケース、就業規則の周知が不十分で、就業規則としての効力が認められないケースなども多く見られます。このような問題のある就業規則では、就業規則がないのと同じであり、労働問題に端を発したトラブルに対応できず、逆に、会社に大きな損害をもたらす危険すらあります。
なお、雇用契約書と就業規則の内容が食い違うときは、雇用契約書の方が従業員にとって有利な項目については雇用契約書が適用され、就業規則の方が従業員にとって有利な項目については就業規則が適用されるというルールが設けられています(労働契約法第7条但書、労働契約法第12条)。
7 就業規則作成はさいたまシティ法律事務所にご相談ください
さいたまシティ律事務所では、多くの労働問題や労務トラブル、労働裁判を解決してきた実績があり、その際の経験を生かして、就業規則の内容を、実際の労働問題や労務トラブル、労働裁判にて活用できる内容にするために、常に改善、研究を行っています。このようなことは、実際に裁判を担当して解決にあたる弁護士でなければできません。
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Last Updated on 2025年1月17日 by roumu.saitamacity-law
この記事の執筆者:代表弁護士 荒生祐樹 さいたまシティ法律事務所では、経営者の皆様の立場に身を置き、紛争の予防を第一の課題として、従業員の採用から退職までのリスク予防、雇用環境整備への助言等、近時の労働環境の変化を踏まえた上での労務顧問サービス(経営側)を提供しています。労働問題は、現在大きな転換点を迎えています。企業の実情に応じたリーガルサービスの提供に努め、皆様の企業の今後ますますの成長、発展に貢献していきたいと思います。 |