発達障害の従業員への対応方法とは?適切な対応方法を弁護士が解説

発達障害とは

発達障害者支援法第2条の定義によると、発達障害とは、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。」とされています。発達障害を抱える社員は、日々の業務の中でコミュニケーションや業務の指示理解において困難を経験することがあり、その特性に応じた対応策を講じることが重要です。具体的な業務内容や目標を明確にし、指示内容にあいまいさがないよう工夫することが求められます。

発達障害の定義と特徴

発達障害には、症状における特性に応じて様々なタイプがあります。それぞれの障害の特徴を正しく理解し、適切な配慮と支援を行うことが、発達障害を持つ社員の能力を最大限に発揮させるための鍵です。以下では、6つの主要な発達障害の定義と特徴について詳しく説明します。

1 自閉スペクトラム症 (ASD)

自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder)は、社会的な相互作用やコミュニケーションの困難さ、興味や行動の範囲が限定されていることが特徴です。この障害には、他者との意思疎通が難しく、相手の気持ちや意図を理解することが困難な場合が多くあります。また、特定の行動パターンやルーチンに固執する傾向があり、環境や予定の変更に対して非常に敏感です。これらの特徴は、業務遂行においても予期せぬ変化に対応することが難しいことを意味します。

2 注意欠如・多動症 (ADHD)

注意欠如・多動症(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)は、集中力の持続が難しい、衝動的な行動、落ち着きのなさ、多動といった特徴を持つ障害です。ADHDの社員は、会議中や長時間の作業で集中力を保つことが困難であり、注意が散漫になることでミスが増える可能性があります。さらに、タスクを複数抱えると優先順位の判断が難しくなり、効率が低下することもあります。

3 学習障害 (LD)

学習障害(Learning Disability)は、読み書き、計算、推論など特定の学習分野において困難を伴う障害です。LDの社員は、文字を読み書きする作業においてミスが発生しやすく、複雑な文章を理解するのに時間がかかる場合があります。知的能力に問題はありませんが、文字情報の処理が苦手なため、作業効率が低下することがあります。

4 発達性協調運動障害 (DCD)

発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder)は、運動スキルや身体の協調動作に困難を伴う障害です。この障害を持つ社員は、手先の器用さを必要とする作業や、身体のバランスを取る作業において困難を感じることがあります。具体的には、キーボードのタイピング速度が遅かったり、書類整理が難しかったりすることが特徴です。

5 コミュニケーション障害

コミュニケーション障害(Communication Disorder)は、言語発達遅滞や発話困難、発音に関する問題など、言語やコミュニケーションに困難を伴う障害です。これらの社員は、会議や報告において言葉での表現が難しく、他者と意思疎通を図る際に混乱が生じることがあります。

6 知的能力障害

知的能力障害(Intellectual Disability)は、知的機能や適応行動に制限がある状態で、学習や日常生活の遂行に困難を伴うことがあります。業務を一度に理解することが難しく、時間がかかる場合が多いですが、適切なサポートを行うことで、一定の業務遂行が可能となります。知的能力障害のある社員に対しては、業務内容を単純化し、必要な情報を一度に伝えるのではなく、段階的に小分けにして指示を出すことが有効です。また、複数のタスクを同時にこなすことが難しいため、優先順位を明確にし、一度に一つの業務に集中できるようサポートすることが重要です。

職場で起こる典型的なトラブル事例と対応策

発達障害を持つ社員が職場にいる場合、特性に対する理解不足やコミュニケーションの不一致からトラブルが発生することがあります。これらのトラブルは、発達障害に対する適切な対応を取らないことから生じるため、事前に防ぐための対策が重要です。以下に、職場で起こりやすいトラブルの典型例を紹介します。

1.指示の不明確さによる業務のミス

【トラブル内容】

発達障害を持つ社員は、口頭での指示やあいまいな表現によって業務内容を正確に理解できないことがあります。特に、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)を持つ社員は、細かい指示がなければ間違った解釈をしてしまい、業務のミスや進捗の遅れが発生することが多いです。例えば、上司が「適宜進めてください」という曖昧な指示を出すと、具体的に何をすべきかが理解できず、業務が滞ってしまうことがあります。

【具体的な対応策】

このような場合、指示内容を明確化するために、業務を一つ一つ段階的に説明し、進行中のタスクをリスト化することが効果的です。また、口頭だけでなく、メールやチャットで指示内容を文章として残すことで、後から確認できるようにすることが重要です。特に、業務の優先順位を明示し、どの順番で進めるべきかを明確に伝えることがトラブルを防ぐカギとなります。

2.コミュニケーションのギャップによる人間関係の摩擦

【トラブル内容】

発達障害を持つ社員は、特に自閉スペクトラム症(ASD)を持つ場合、他者の気持ちを読み取ることが苦手で、無意識に無礼な発言をしてしまったり、相手の意図を誤解することがあります。これにより、上司や同僚とのコミュニケーションに摩擦が生じ、人間関係のトラブルが発生することがあります。例えば、会議中に他者の意見を無視して自分の意見だけを押し通そうとしてしまい、チーム内の不和を引き起こすことがあります。

【具体的な対応策】

このようなトラブルを防ぐためには、社員全体に対して発達障害に関する研修を実施し、特性に対する理解を深めることが重要です。また、発達障害を持つ社員には、会話中に相手の意図や感情を確認するための方法(例えば、相手に「これは正しい解釈ですか?」と尋ねる)を教えることで、誤解や衝突を減らすことができます。さらに、一対一のフィードバックの場を設け、業務中のコミュニケーションに関する具体的なアドバイスを提供することも効果的です。

3.時間管理が苦手で締め切りに遅れる

【トラブル内容】

注意欠如・多動症(ADHD)を持つ社員は、時間管理が難しいことが多く、複数の業務を並行して進める際に、どの作業を優先すべきかが分からなくなり、結果として締め切りに遅れることがあります。また、長時間の作業に集中できず、作業が途中で止まってしまうこともあります。例えば、プロジェクトの進捗が遅れ、チーム全体の成果に影響を与えることがあります。

【具体的な対応策】

時間管理が苦手な社員に対しては、ポモドーロ・テクニックなどの短時間集中法を推奨し、25分作業、5分休憩といったリズムで業務を進める方法を提供することが効果的です。また、作業時間の記録やリマインダーを設定できるアプリ(例:TrelloやGoogle Calendar)を活用し、期限を可視化することがトラブルの防止に繋がります。さらに、進捗状況をこまめに報告させ、業務が進んでいるか確認することで、問題が発生する前に適切なサポートを提供することが可能です。

4.突然の環境変化に対応できずパフォーマンスが低下する

【トラブル内容】

自閉スペクトラム症(ASD)を持つ社員は、予定外の出来事や環境の変化に対して非常に敏感であることが多く、業務中に突発的な変更があると対応できず、パフォーマンスが著しく低下することがあります。例えば、急なプロジェクトの変更や席替えによって、業務に支障をきたし、ストレスを抱える場合があります。

【具体的な対応策】

環境や業務内容の変更を最小限に抑えるためには、事前に変化が起こる可能性を説明し、予測できる範囲で情報を提供することが重要です。また、変更に対して適応する時間を与え、小さなステップで段階的に新しい環境に慣れさせることが効果的です。さらに、定期的にフィードバックの場を設け、変化に対してどのように感じているかを確認し、適切なサポートを提供することがパフォーマンスの維持に役立ちます。

5.繰り返しの作業や単調な業務に対する集中力の低下

【トラブル内容】

発達障害を持つ社員は、繰り返し作業や単調な業務に対して集中力を維持することが難しく、ミスや作業効率の低下が発生することがあります。例えば、同じ種類のデータ入力作業を続けると、ミスが増えたり、作業速度が極端に落ちる場合があります。

【具体的な対応策】

このような場合、作業を小さく区切って進めることや、休憩を適度に挟むことで集中力を保つことが可能です。また、単調な業務の自動化を検討し、繰り返し作業を減らすことも有効です。業務の内容をバリエーション豊かにし、短時間で異なるタスクを交互にこなす方法(例:10分ごとに異なる作業を行う)を導入することで、集中力の低下を防ぐことができます。

発達障害のグレーゾーンとは

1 発達障害のグレーゾーンとは、発達障害の特性があり、診断基準であてはまる項目があるものの確定診断には至らない、発達障害の傾向があるという状態をあらわす言葉です。正式な診断名・疾患名ではありません。

2 発達障害は外見からは判別できない障害であり、また、上記のとおり発達障害の特徴や程度にも様々なものがあり、周りの環境などによって症状の現れ方が大きく異なります。したがって、明確な診断がされる発達障害ではないものの、発達障害の特徴を部分的に持つために、日常生活や社会生活で一定の困難を経験する状態に至ることがあります。

3 グレーゾーンの特徴としては、以下の内容が挙げられます

⑴ 診断基準に達しない

発達障害の正式な診断を受けるためには、DSM-5やICD-11などの国際的な診断基準を満たす必要がありますが、グレーゾーンの人々はその基準を満たさない場合があります。

⑵ 部分的な症状の存在:

ASDやADHDの特性を持っているものの、その症状が軽度であるために診断には至らないケースです。これらの特性が社会的な関係や仕事において支障をきたすことがあります。

⑶ 支援が必要な場合がある

明確な診断がないため、特別な支援や配慮が受けにくいことがありますが、実際には生活上のサポートが必要なことがあります。

企業に求められる合理的配慮・発達障害の従業員に対応する適切な対応方法

平成28年4月に改正障害者雇用促進法が施行され、雇用分野における障害者差別は禁止そして、合理的配慮の提供は義務とされました。なお、障害者差別解消法においても合理的配慮について定められていますが、こちら努力義務であるのに対し、障害者雇用促進では、合理的配慮を提供する事業主の義務は法的義務となっています(障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A・Q4-1-2)。

合理的配慮に関しては厚生労働省が指針を策定しており、発達障害も含め、合理的配慮に関する事例集も策定されています。(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shougaisha_h25/index.html

上記の合理的配慮の事例集においては、障害類型別に合理的配慮の内容が策定されています。事例集における発達障害に関する合理的配慮の一例として、「募集・採用の面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること」、「募集・採用の面接・採用試験について、文字によるやり取りや試験時間の延長を行うこと」、「採用後に業務指導や相談に関し、担当者を定めること。」「採用後に業務指示やスケジュールを明確にし、指示を一つずつ出す、作業手順について図等を活用したマニュアルを作成する等の対応を行うこと。」などが挙げられています(合理的配慮事例集65頁以下)

また、令和5年6月11日付け朝日新聞デジタル版の記事「発達障害の社員が求める配慮「わがままではなく企業成長のチャンス」では、企業の具体的な取り組みが紹介されています(https://www.asahi.com/articles/ASR5S53JCR5PUTFL00L.html

職場環境の構築はさいたまシティ法律事務所にご相談ください

企業に求められる合理的配慮については、法律上の義務とされ、企業は必然的に対応が求められています。一方で、障害者雇用促進法の改正は比較的最近のことであり、どのような対応が必要なのか戸惑われている会社も多いことでしょう。

職場環境の構築においてお悩みがあれば、ぜひさいたまシティ法律事務所にご相談ください。

以上

Last Updated on 2024年10月18日 by roumu.saitamacity-law

この記事の執筆者:代表弁護士 荒生祐樹

さいたまシティ法律事務所では、経営者の皆様の立場に身を置き、紛争の予防を第一の課題として、従業員の採用から退職までのリスク予防、雇用環境整備への助言等、近時の労働環境の変化を踏まえた上での労務顧問サービス(経営側)を提供しています。労働問題は、現在大きな転換点を迎えています。企業の実情に応じたリーガルサービスの提供に努め、皆様の企業の今後ますますの成長、発展に貢献していきたいと思います。

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