試用期間とは
⑴ 会社が従業員を採用した後、本採用前の一定期間、その従業員の業務適格性等をより正確に判断するための期間を「試用期間」といいます。
会社が従業員を雇い入れる場合、採用面接だけでその従業員が会社の求める業務適性を有しているか見極めることは困難であり、試用期間を設けることは双方のミスマッチを防ぐ目的もあります。
試用期間は就業規則で定められていることが多く、期間としては3ヶ月から6か月程度としている会社が多い印象です。
⑵ 試用期間中は、「解約権留保付きの雇用契約」が成立しているとされ、いずれにしろ雇用契約が成立していることに変わりはありません。
試用期間中と言えども、労働基準法及び労働契約法の適用がある雇用契約が成立しているという意味では通常の雇用契約と同様であり、試用期間中の採用取り消しは「解雇」と同様に扱われます(最大判昭和48年12月12日・三菱樹脂事件参照))。稀に、試用期間を文字通りお試し期間と捉えて、試用期間中の従業員を会社が自由に解雇できると捉えている経営者の方を見かけることがありますが、そのような捉え方は明らかな誤りです。
⑶ なお、「試用期間中の解雇」については、文字通り、「試用期間中の解雇」と、「試用期間満了時の本採用拒否」の問題に分かれますので、以下では分けて説明します。
試用期間中の解雇理由と注意点
前述のとおり、試用期間中であっても雇用契約が成立していることに変わりなく、労働基準法、労働契約法等の労働法の適用を受けます。試用期間であるからといって解雇しやすいということはありません。試用期間中は、当該従業員の業務の適格性の有無を判断するための期間ですので、そのような判断は基本的に試用期間が終了した時に判断すべきであって、「試用期間の途中」に判断すべきものではないからです。
なお,「試用期間の途中の解雇」が認められるには、試用期間を定めた合意に反して短縮するに等しく、能力・資質不足が顕著で改善の見込みがないという特別の事情が必要であるとする裁判例があります(東京高判平成21年9月15日・ニュース証券事件)。
もっとも、事情によっては「試用期間の途中」でも解雇を検討せざるを得ない場面があるでしょう。以下、解雇を検討する際に,どのような点に留意すべきか見ていきます。
⑴ 期待していた能力がなく一定の成績を期待することができない
試用期間中の解雇で問題となる多くのケースは、従業員の能力不足です。例えば、他社での業務経験など一定の能力を見込まれた中途採用者(即戦力)の場合、試用期間の途中で能力不足が明らかといえるような場合は、試用期間中の解雇が有効となる場合もあるでしょう。もっとも、経験者とはいっても会社ごとに業務の内容や業務の手順が異なるのが通常であり、試用期間中の従業員に対して十分な指導や改善機会を与えずに解雇した場合、会社の指導不足であるとして解雇は無効と判断されることもあるでしょう。
一方で、未経験者や新卒採用者を前提に採用している場合、多少の能力不足では解雇することはできません。未経験者や新卒採用者は、雇い始めた当初仕事ができないのはむしろ当然であって、むしろ使用者側が指導や注意を行うことが求められます。したがって、ある程度の期間指導や注意を繰り返しても改善がされず、能力不足の程度も会社が許容できる範囲を超える場合にはじめて解雇を検討すべきといえます。
なお、能力不足といえるかどうかについては、客観的な証拠や数値で他の社員と比較して明らかに劣っているかという観点で判断することが重要です。
⑵ 病気や怪我を理由とする解雇
病気や怪我の理由が業務に起因する場合、その療養のための休業期間と療養のための休業期間の終了後30日間は、法律上解雇できません(労働基準法19条1項柱書)。
業務に起因する病気や怪我とは、例えば、現場作業中に怪我をした場合や、長時間労働でうつ病になった場合などです。
病気や怪我の理由が業務外のもの(私傷病)であったとしても、会社の就業規則に試用期間中の者でも休職させることができる規定があれば、まずは休職させて様子をみるべきです。休職規定があるのに休職をさせなかった場合は、その理由が問われることになるでしょう。
したがって、休職規定がある場合には、休職させた上で復職の可否を検討し、最終的に解雇するかどうか判断するという手順を踏むべきです。
⑶ 勤怠不良
試用期間の段階で遅刻・早退・欠勤を繰り返すなど社内の規律を守らないのであれば、本採用拒否の正当な理由にもなりそうですが、何回繰り返せば試用期間の途中に解雇が認められるといった決まったルールがあるわけではありません。また、試用期間中の欠勤が続いたとしても、それが業務を理由としたメンタル不調による出勤不能の場合は、「正当な理由」のある欠勤とされることもあるでしょう。したがって、遅刻や欠勤があった場合も、いきなり解雇を検討するのではなく、まずは理由をよく把握し、正当な理由に基づく欠勤等でないのであれば注意・指導を行い、それでも一向に改善されない状態が続くようであれば、解雇を検討すべきでしょう。
⑷ 協調性不足
遅刻や欠勤などと同様、上司からの指示に反発したり、他の社員と頻繁にトラブルを起こすような社員は協調性が不足していると判断することがあるでしょう。ただし、このような場合でも、まずは当該従業員の言い分や事情を聞き、上司への反発や起こしたトラブルに理由が認められない場合は、その行為に対して注意・指導を行いましょう。注意・指導に対しても反発したり従わない場合は、解雇に正当な理由が認められやすくなります。
⑸ 経歴詐称
経歴詐称は、「その前歴詐称が事前に発覚すれば、使用者は雇入契約を締結しなかったか、少なくとも同一条件では契約を締結しなかったであろうと認められ、かつ、客観的にみて、そのように認めるのを相当とする、前歴における、ある秘匿もしくは虚偽の表示」、すなわち、その事実を知っていれば採用していなかったといえるような「重要な部分」に詐称があった場合に解雇が認められます。
重要な部分の詐称かどうかは、詐称の内容や当該従業員の職種などを考慮して具体的に判断されますが、例えば、学歴、職歴、犯罪歴などは「重要な部分」といえるのではないでしょうか。
試用期間中の解雇のポイント
⑴ 「試用期間中の解雇」と「試用期間満了時の本採用拒否」の問題がある
一概に試用期間中の解雇といっても、上記2つの問題があることに留意する必要があります。試用期間中の解雇のハードルは、前述のとおり通常の解雇の場合と比較して大きな差があるわけではなく、試用期間中だから解雇しやすいということではありません。一方で、「試用期間満了時の本採用拒否」の問題はやや特殊で,以下の裁判例でも述べられているとおり、本採用後の解雇と比較する限りでは、解雇は認められやすいとされています。
●三菱樹脂事件(最高裁昭和48年12月12日民集第27巻11号1536頁)
(判旨)
「それゆえ、右の留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきもの」であるが、「解約留保権の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当と是認されうる場合」にのみ許されるとしています。
しかし、試用期間満了時の本採用拒否であっても、使用者側に自由裁量による解雇権が与えられているわけではありません。前記三菱樹脂最高裁判決では、
「企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務態度等により当初知ることができず、又は知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において・・・その者を当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが相当と認められる場合」
に解雇が許されるとしています。したがって、試用期間満了時の本採用拒否についても、普通解雇に準ずるような準備とプロセスを経たうえで行うことが求められます。
このように、試用期間満了による本採用拒否も、それが解雇であるが故に決して容易に行うことができるものではないことに留意する必要があります。以下では、試用期間満了による本採用拒否が有効とされた事例を紹介します。
●ブレーンベース事件(東京地裁平成13年12月25日判決)
(事案)
⇒Xは、医療機器製造販売業を営むY社に、平成11年1月6日から雇用され、3ヶ月は試用期間であるとされていた。使用者は、Xがパソコンに精通している、営業活動の経験と能力を有することから採用することとした。ところがXはパソコンを満足に使うことができず(FAXもできない)、業務命令に従わない、重要な業務が行われる商品発表会の翌日に休暇を取るなどしたことから、YはXを解雇した(本採用拒否)。
(理由)
⇒試用期間中の解雇は通常の解雇の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められるとしたうえで、一方、試用期間中の解雇といえども客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当と是認される場合にのみ許されるのが相当であるところ、本事案においては、試用期間中の解雇に客観的に合理的な理由があり、有効と判断した。
●ゴールドマン・サックス・ジャパン・リミテッド事件(東京地裁平成31年2月25日判決)
(事案)
⇒平成27年5月に,アナリストとして試用期間を3ヶ月として中途入社したが、入社当初からミスが目立ち、複数回面談が行われたが改善しなかった。そこで、平成27年10月10日付けで「試用期間対象者を社員として勤務させることが不適当であると決定した場合」に該当するとして解雇した(本採用拒否)。
(理由)
⇒使用者はXを即戦力として採用し、Xもそのことを認識していること、Xのミスは複数かつ軽微なものとはいえず、複数回の指導が行われたものの改善には至らない。Xを採用するに至った経緯等踏まえても、解雇(本採用拒否)の手続きには問題があったとは認められない、と判示した。
⑵ 試用期間開始後14日以内の解雇であれば予告は不要である
会社が従業員を解雇する場合、原則として30日前に従業員に解雇の予告をするか、30日以上の賃金(解雇予告手当)を支払って即日に解雇するかどちらかの手続きを行うこととなっています(労働基準法20条1項)。
しかし、試用期間開始後14日以内に解雇する場合は、この解雇予告や解雇予告手当が不要となります(労働基準法21条4号)。試用期間が開始して14日を経過した後については、解雇予告もしくは解雇予告手当の支払いが必要になります。
⑶ 試用期間中であっても離職票の発行は必要
試用期間中の解雇であっても、離職票の発行は原則必要になります。
雇用保険制度は、従業員を雇用する全ての事業に適用され(雇用保険法5条1項)、そこで雇用される従業員は被保険者とされます。ただし、週の所定労働時間が20時間未満の人、同一事業主での雇用見込みが30日以内の人、短期または短時間で季節的に雇用される人、学生・生徒など厚生労働省令で定める人などは、雇用保険制度の適用対象から除外されています(雇用保険法6条)。
したがって、雇用保険制度の適用対象となる被保険者が退職した場合には、試用期間の有無や退職の理由、雇用期間の長短に関わらず、事業主は資格喪失届と離職証明書を作成し、公共職業安定所(ハローワーク)に届け出て離職票(様式第6号)を退職者に交付しなければなりません。ただし、解雇された従業員が交付を希望しない場合(雇用保険施行規則第7条3項)には、離職票を交付する必要はありません
試用期間中の解雇で不当解雇となる可能性があるもの
特に、新卒採用社に対する能力不足を理由とする解雇は無効となる可能性が高いと言えます。新卒採用者やその業種について未経験を前提で採用したケースでは、ある程度仕事ができないことは致し方ないところであり、能力不足を理由とする解雇をするにはある程度の期間指導を行い、それでも改善の見込みが認められない場合にはじめて、解雇を検討することが無難です。
一方、中途採用社員に関しては、能力に期待して採用している以上、求めていた能力に達していなければ解雇したいという使用者側の意向はもっともです。ただ、それでも、まずは指導や注意を会社側で行う必要があるでしょう。これらの指導や注意を一切行わない若しくは行っていたとしても行った証明ができないにもかかわらず解雇した場合、不当解雇となる可能性があります。なお、指導や注意は口頭で行ってもよいですが、前述のとおり指導や注意を行った証拠を残すために、書面で行うことも大事です。
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問題社員を解雇するべき理由
現代社会では、会社の規模の大小にかかわらず、いわゆる「問題社員」はどこの会社にも存在している可能性があります。例えば、会社の指示に従わない社員、遅刻欠勤を繰り返す社員、能力に問題のある社員(ローパフォーマー)、協調性のない社員、あるいは社内で窃盗、横領行為等に及ぶ社員などです。問題社員の問題が顕在化すると、他の社員の退職、意欲の低下など、職場環境の悪化、生産効率の低下等を誘発することとなり、悪影響を及ぼしかねません。そのため、問題社員対応にあたっては、着地点を見据えたうえでの適切な対応を早期に図る必要があります。
まとめ
さいたまシティ律事務所では、これまで数多くの交渉,労働審判,裁判を通じて労働問題や労務トラブルを解決してきた実績・経験を有しており、これまでの実績や経験を踏まえ企業の皆様にとって最善の解決を導くべく日々業務に励んでいます。
試用期間中の従業員について,法的対応を検討されている経営者の皆様は、ぜひ一度、さいたまシティ法律事務所にご相談ください。
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以上
Last Updated on 2024年11月20日 by roumu.saitamacity-law
この記事の執筆者:代表弁護士 荒生祐樹 さいたまシティ法律事務所では、経営者の皆様の立場に身を置き、紛争の予防を第一の課題として、従業員の採用から退職までのリスク予防、雇用環境整備への助言等、近時の労働環境の変化を踏まえた上での労務顧問サービス(経営側)を提供しています。労働問題は、現在大きな転換点を迎えています。企業の実情に応じたリーガルサービスの提供に努め、皆様の企業の今後ますますの成長、発展に貢献していきたいと思います。 |