みなし労働時間制とは
「みなし労働時間制」とは、労働基準法38条で定められた制度の一つで、実際に働いた時間にかかわらず、事前に決められた所定労働時間を働いたとみなす制度です。「みなし労働時間制」の適用対象としては、営業職など事業場外で業務することが多く正確な労働時間の算出が難しい場合や、専門性が高い仕事で労働者に時間管理を任せた方が高いパフォーマンスが期待できる業務などが想定されています。正しく運用すれば使用者と従業員の双方にメリットがある制度です。
みなし労働時間制の種類
⑴ 事業場外みなし労働時間制(労基法38条の2)
労働時間の原則として、使用者は、実労働時間(労働者を実際に労働させる時間)により労働時間を算定する必要があります(労基法32条等参照)。しかし、その例外として、外回りの営業等の外勤(最近では在宅勤務なども)など、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難と言える場合には、使用者の労働時間算定義務を免除するという制度が、事業場外みなし労働時間制です。
| (労働基準法) 第38条の2第1項 ①労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、②労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。 |
⑵ 専門業務型裁量労働制(労基法38条の3)
「専門業務型裁量労働制」とは、業務の専門性が高く、業務を遂行する方法や時間配分などについて労働者に委ねた方が、一定の成果を発揮できる業務に適用されるものです。研究職や情報処理システムの業務、デザインの考案業務、放送番組等のプロデューサー業務、記者・編集者の業務、弁護士の業務など、厚生労働省令及び大臣告示で規定される19の業務が対象となっています。
⑶ 企業業務型裁量労働制(労基法38条の4)
「企画業務型裁量労働制」とは、企業の事業運営に関する企画、立案、調査および分析の業務を行う労働者に適用されます。企画業務については、労働者が自らの知識、技術や創造的な能力を発揮し、仕事の進め方や時間配分に関し主体性をもって働きたいという意識が高まっています。
適用されるのは対象業務が存在する事業場であり、具体的には以下の事業所が該当します。
①本社・本店である事業場
②①のほか、次のいずれかに掲げる事業場
ア 当該事業場の属する企業等に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行なわれる事業場
イ 本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に、当該事業場に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている支社・支店等である事業場
したがって製造のみを行う事業場や本社の指示を受けて営業活動を行う事業場は適用外となります。また対象業務(事業運営に関して企画、立案、調査および分析)に常態として従事し、対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者に限られています。
みなし労働時間制が違法になる場合
⑴ 裁判例においてよく争われるのは、みなし労働時間制の中でも特に事業場外みなし労働時間制です。争われ方として、労基法38条の2第1項の要件(特に、「労働時間を算定し難いとき」)を満たさず、みなし労働時間が認められないというケースが少なくありません。この問題は、労働者側が、事業場外労働みなし制度が無効であると主張して、使用者に対して時間外労働に対する割増賃金等の支払いを求める、という形で顕在化します。近時問題となった著名なケースでは、協同組合グローブ事件があります(最高裁令和6年4月16日)
⑵ 行政解釈では、以下のような場合、事業場外で業務に従事する場合であっても、使用者の具体的な指揮監督が及んでいるとして、労働時間の算定が可能であり、みなし労働時間制の適用はないとされています(昭63.1.1基発1号)
①何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
②事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合
③事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後事業場に戻る場合
みなし労働時間制のメリット・デメリット
⑴ 従業員側のメリット・デメリット
従業員は、決められた時間に縛られず、自分のペースで業務に従事できるという点においてメリットがあります。また、実働時間にかかわらずみなし労働時間分働いたとみなされるため、始業や終業、休憩の時間を自分の意思で決めることができます。効率よく仕事を進めてみなし労働時間よりも早く仕事を終えることできます。
一方で、みなし労働時間を超過した労働時間に対する残業代は、原則支払われないため、自分自身で時間管理を行い、効率よく仕事を進めることが必要となるため、場合によってはその点がデメリットとなることが考えられます。
⑵ 企業側のメリット・デメリット
所定労働時間内のみなし労働時間であれば、休日・深夜労働が発生しない限り割増賃金を支払うことはありませんので給与計算がしやすくなります。
一方で、みなし労働時間制は適用される労働者が限定されており、また導入にあたっては就業規則の改訂が必要となったり、労働基準監督署などへの届け出など手続きが必要となる場面があり、導入にあたり手間や時間がかかる可能性があります。
また、前述のとおり特に、事業場外みなし労働時間制を採用しても、労基法38条の2第1項の要件(特に「労働時間を算定し難いとき」)を満たさない場合は、その適用が認められず、労働者に割増賃金を支払う場面が生じます。
みなし労働時間制を導入する場合の注意点
みなし労働時間制は、労働者の裁量により自由に働くことができる一方で、使用者側は労働時間の厳格な算定が不要となる点で双方にメリットがある制度です。
しかし、全く従業員の労働時間管理をしなくてよいわけではありません。令和元年4月から、労働安全衛生法第66条の8の3において、「客観的方法による労働者の労働時間の状況を把握する義務」が定められ、企業には労働者の労働時間の把握義務が課せられています。また、従業員が業務をこなすためにオーバーワークとなったり、逆にみなし労働時間を大幅に下回る労働しかしなかったり、あえて深夜や休日に労働し割増賃金を請求するといった可能性も否めないところです。
みなし労働時間制では業務の進め方を労働者に委ねる制度ですが、労働時間の把握は必須です。使用者は長時間労働を行わせないことや、健康確保を図ることが求められ、これらを遵守しない場合は使用者の安全配慮義務が問題となることもあります。
みなし労働時間制に関するご相談はさいたまシティ法律事務所にご相談ください
以上のとおり、みなし労働時間制は、制度を導入すれば良いというわけではなく、使用者は、その後の従業員の労働時間の把握や、会社で導入した制度そのものの適法性といったリスクがあるため、制度の導入にあたっては勿論のこと、制度を導入した後においても、実際の運用がいつどんな形で紛争となるか問われかねない問題です。
さいたまシティ法律事務所では、みなし労働時間制の導入やその運用に関し、個々のケースに応じてアドバイスをご提供することが可能です。これにより、トラブルのリスクを最小限にとどめることが可能です。
みなし労働時間制の導入やその運用に関し、お悩みの企業様はさいたまシティ法律事務所までご相談ください。

Last Updated on 2025年12月8日 by roumu.saitamacity-law
![]() この記事の執筆者:代表弁護士 荒生祐樹 さいたまシティ法律事務所では、経営者の皆様の立場に身を置き、紛争の予防を第一の課題として、従業員の採用から退職までのリスク予防、雇用環境整備への助言等、近時の労働環境の変化を踏まえた上での労務顧問サービス(経営側)を提供しています。労働問題は、現在大きな転換点を迎えています。企業の実情に応じたリーガルサービスの提供に努め、皆様の企業の今後ますますの成長、発展に貢献していきたいと思います。 |





