リベンジ退職とは
近年、労働者の権利意識の高まりとともに、退職時に企業へ意図的なダメージを与えようとする「リベンジ退職」が深刻な問題となっています。「リベンジ退職」とは、会社に対する不満や恨みを抱いた従業員が、報復として、「会社に最大限の損害を与えること」を目的として退職する行為を指します(「リベンジ退職」は法律上の用語ではありません。)
単なる自己都合退職とは異なり、繁忙期を狙った突然の辞職、重要データの削除、退職代行サービスを利用した引き継ぎの拒否など、企業に対する悪意を伴うのが特徴です。法的には従業員に「退職の自由」があるものの、その行使の仕方が公序良俗や信義則に反する場合、トラブルに発展します。
リベンジ退職が企業に与える影響
リベンジ退職は、以下のとおり企業に重大な影響・被害をもたらします。
⑴ 業務の停滞
重要なプロジェクトの進行中に、ノウハウを独占していた社員が全く引き継ぎを行わずに辞めるケースです。中には、業務に必要なパスワードを開示しなかったり、顧客情報を持ち出したりする悪質な例も見られ、業務がストップするリスクがあります。
⑵ 他の従業員への負担の増加
突然の従業員の欠員は、残された従業員に過度な労働を強いることになります。これが連鎖的な退職(ドミノ退職)を招き、組織崩壊の引き金になることも少なくありません。
⑶ 誹謗中傷による社会的評価の低下
SNSや口コミサイト(転職サイト等)に、事実を歪曲した会社の悪評を書き込むことで、企業は「ブラック企業」としてのレッテルを貼られることで、採用活動の困難や既存顧客の離反を招き、目に見えない甚大な損害が生じます。
リベンジ退職した社員に対する損害賠償の請求は認められるのか
企業の従業員に対する損害賠償請求は極めてハードルが高いのが実情です。そもそも、従業員には退職の自由が認められており、民法上、退職届を提出してから2週間が経過することにより法的に退職は認められます。そのため、従業員の退職によって企業が困ったからといって、その退職が理由で企業に損害が発生したと直ちに認められるわけではありません。企業としては、従業員が退職することも見越した上で社内の制度設計をすべきであって、一従業員の退職によって困るような事態が生じた場合、それは企業側の責任である、とも評価しうるでしょう(おそらく裁判所は基本的にこのようなスタンスです)。
退職した従業員に対し損害賠償として認められる余地のあるものとして、①引き継ぎを一切拒否し、意図的に損害を発生させた、②会社所有のデータを故意に消去した、③主要メンバーを大量に引き連れて競合他社へ移籍した(引き抜き)といったものが典型例として上げられますが、立証のハードルは極めて高いものが求められます。
①に関して言えば、引き継ぎをしなかったとしても、それによって使用者に具体的な損害が発生したとの立証が困難であることが多く、これまで認められた例として、退職時に業務上のデータを削除したケース、後任者に虚偽の内容の引継書を交付して事業者に損害を生じさせたケースなど、単なる引き継ぎの不履行を超えて、事業主の業務を妨害して損害を生じさせたような場合に限られる、とされています。以下、裁判例を紹介します。
認められなかったケース
最高裁平成22年3月25日判決(最高裁第1小法廷)
退職する従業員が取引先に対して、退職の挨拶に行き、退職後は同業を営むので受注を希望する旨を伝えた事案で、取引先を失った使用者が退職した従業員に損害賠償請求を行ったものの、認められませんでした。取引先の営業担当者であったことに基づく人的関係等を利用することを超えて、事業主の営業秘密を用いたり、事業主の信用をおとしめたりするなどの不当な方法で営業活動を行なったことは認められないことが理由として挙げられました。
認められたケース
知財高裁平成29年9月13日判決(裁判所ウェブサイト)
プログラマーである従業員が突如失踪したことにより、使用者は当該従業員に担わせていた業務を外注せざるを得なくなったことを損害として、外注費から2ヶ月分の給与を差し引いた額及び受注できる予定であった売上の利益率を逸失利益として、従業員に対する損害賠償を認めたところ、裁判所は以下の判断を示して損害賠償を認めました。以下、裁判所の判示です。
「雇用契約において、労働者は、使用者に対し、上記労務提供義務に付随して、当該労務の提供を誠実に行い、使用者の正当な利益を不当に侵害してはならない義務を負うものといえるところ、このような労働者の誠実義務からすれば、被控訴人が職を辞して労務の提供を停止するに当たっては、使用者である控訴人に対し、所定の予告期間を置いてその旨の申入れを行うとともに、自らが担当していた控訴人の業務の遂行に支障が生じることのないよう適切な引継ぎ(それまでの成果物の引渡しや業務継続に必要な情報の提供など)を行うべき義務を負っていたものというべきである。
しかるところ、被控訴人は、平成25年12月29日、控訴人代表者らに対し自己の担当業務に関する何らの引継ぎもしないまま突然失踪し、以後、控訴人の業務を全く行わず、控訴人に何ら連絡もしなかったのであるから、このような被控訴人の行為が、控訴人との雇用契約に基づく上記労務提供義務及び誠実義務(労務の提供を停止するに当たって、所定の手順を踏み、適切な引継ぎを行う義務)に違反し、債務不履行を構成することは明らかであり、被控訴人は、これによって控訴人に生じた損害を賠償する義務を負う。」
退職トラブルを自社だけで対応するリスク
退職トラブルを社内だけで解決しようとすると、以下のリスクを伴うことになりかねません。
⑴労働基準監督署への通報
会社側の対応が「退職妨害」や「パワハラ」と捉えられ、行政指導の対象になるリスクがあります。
⑵ 不適切な合意
焦って不適切な内容の合意書にサインをさせると、後に、サインするように迫られたなどと強要されたと主張される可能性があります。
⑶泥沼化
労使双方の感情の対立により交渉が決裂し、従業員によるSNSでの暴露など、さらに過激なリベンジを誘発する恐れがあります。
退職に関するトラブルは弁護士までご相談ください
退職を決意した従業員を引き止めるのは困難であるため、リベンジ退職の事態に至る前に、有効な対策を講じる必要があります。従業員がリベンジ退職に至ることのないようにするためには、企業の実情に応じた法的観点からの継続的なアドバイスやサポートが不可欠です。もし、既にトラブルが発生しているような場合、損害の発生を最小限に食い止めるには、法的知識及び裁判に至った場合の予測可能性を踏まえた「冷静かつ迅速な対応」が不可欠です。
当事務所では、ご相談者様の状況を詳細にヒアリングし、後の訴訟まで見据えた対応が可能です。従業員の退職に関しお悩みの企業様は、ぜひさいたまシティ法律事務所までご相談ください。

Last Updated on 2026年3月11日 by roumu.saitamacity-law
![]() この記事の執筆者:代表弁護士 荒生祐樹 さいたまシティ法律事務所では、経営者の皆様の立場に身を置き、紛争の予防を第一の課題として、従業員の採用から退職までのリスク予防、雇用環境整備への助言等、近時の労働環境の変化を踏まえた上での労務顧問サービス(経営側)を提供しています。労働問題は、現在大きな転換点を迎えています。企業の実情に応じたリーガルサービスの提供に努め、皆様の企業の今後ますますの成長、発展に貢献していきたいと思います。 |




