はじめに
インターネット上での誹謗中傷は、企業のブランドイメージや信用を著しく損ない、事業活動のみならず、採用活動への甚大な影響、また従業員の離職といった悪影響も考えられます。匿名性の高いネット上の書き込みであっても、適切な法的手続きを踏むことで、発信者を特定し、法的責任を追及することが可能です。本コラムでは、企業が受ける誹謗中傷への対応策として、「発信者情報開示請求」の流れと弁護士に相談するメリットについて解説します。
企業が受ける誹謗中傷とは
企業に対する誹謗中傷とは、SNS、匿名掲示板、レビューサイト、ブログ、動画コメント欄など、インターネット上のあらゆるプラットフォームで行われる、企業の信用や名誉を毀損する不当な書き込みや投稿を指します。
(具体的な例)
・根拠のない虚偽の事実の拡散(例:不正会計を行っている、違法な労働を強いている)
・「詐欺会社」などと会社の名誉を毀損するような侮辱的な表現や過剰な表現を伴う批判
・従業員や役員に関するプライバシーを侵害する情報の暴露
・競合他社を装った悪質な口コミ(「サービスが最悪」など)の投稿
最近ではGoogleマップの口コミがよく問題になります。これらの誹謗中傷を放置すると、前述のとおり取引先との関係悪化や採用活動への悪影響、従業員の退職など、目に見える形で損害が拡大するリスクがあります。
誹謗中傷に対する開示請求(発信者情報開示請求)
「発信者情報開示請求」とは、インターネット上の権利侵害(誹謗中傷など)が発生した場合に、その情報を発信した人物(発信者)を特定するため、コンテンツプロバイダ(サイト管理者)やアクセスプロバイダ(インターネット接続事業者等)に対して、発信者の氏名、住所、IPアドレス、ログイン情報といった「発信者情報」の開示を求める法的な手続きです。令和4年(2020年)10月1日の法改正によって、従来よりも、格段に発信者情報開示請求は行いやすくなりました。
企業が発信者情報開示請求を行う目的は、発信者に対し、企業が被った損害(逸失利益、信用の毀損に対する慰謝料、弁護士費用など)の賠償を求めたり、発信者の再発防止を誓約させること等にあるとされています。
開示請求の流れ
発信者情報開示請求は、一般的には以下の手順で進みます。
⑴ 証拠収集
誹謗中傷の投稿が削除される前に、最低限、以下の情報を保全する必要があります。
ア 投稿ページのURL: 該当する書き込みがされているウェブサイトのアドレス
イ 投稿のスクリーンショット: 投稿内容、投稿日時などが明確に確認できる状態の画像。ただし、スクリーンショットだけではURLが記載されていないことが多いので(特にスマホのスクリーンショットではURLは表示されない)、スクリーンショットのみでは基本的に不十分です。また、グーグルやTikTok等のログイン型の投稿の場合は、投稿日時まで明らかにならないと発信者情報の特定には至りません。したがって、アカウントそのものを削除したい場合などは、スクリーンショットを証拠とする開示請求は困難です。
⑵ 弁護士への相談
投稿内容が法的な権利侵害(名誉毀損、侮辱)に該当するかを法的な観点から判断します。また、この場面で投稿の証拠が十分か(URLの記載、投稿日時の記載、同定可能性をみたすか)等について検討します。また、開示請求を進める上での費用対効果の問題や勝訴の見込みについてのアドバイスを受けます。
⑶ サイト管理者を相手方とする裁判所への申し立て
発信者情報開示請求は、ごく稀に任意開示するサイトもありますが、基本的にはないと考えた方がよいでしょう。原則、裁判所への発信者情報開示請求が必要となります。
⑷ 裁判所での審理
発信者情報開示命令(非訴)の申立てを行った場合、多くのケースでは提供命令(サイト管理者に経由プロバイダがどこか開示を求めること)の申立ても同時に行うことになります。裁判所の提供命令に従い、経由プロバイダの情報を得て、経由プロバイダに2度目の発信者情報開示請求の申立てを行います。その後、ログ保有の有無の確認、権利侵害性等について裁判所での審理が行われます。
⑸ 決定・仮処分による情報開示
裁判所が企業の主張を認め、経由プロバイダに対し発信者情報の開示を命じる決定が出た場合、企業は、経由プロバイダから発信者の氏名と住所の提供を受けます。これにより、次のステップである発信者への損害賠償請求へ移行することが可能となります。
手続きを進める上での注意点
経由プロバイダが保有する通信ログには保存期間(通常3ヶ月〜6ヶ月程度)があります。この期間を過ぎるとログが消去され、発信者の特定が不可能となるため、誹謗中傷の投稿を発見したら直ちに対応を開始する必要があります。
また発信者情報開示請求は、上述のとおり、IPアドレスの開示の場合は「サイト管理者への請求」と「プロバイダへの請求」という二段階の裁判手続きが必要となり、複雑かつ時間と費用がかかることを理解しておく必要があります(アカウント情報の開示の場合は二段階である必要はありません)。裁判所も専門部署で取り扱っていることから、弁護士による対応でないと現実的な対応は難しいものがあります。
更に、単なる批判や意見に過ぎない投稿は(「あのラーメンはまずい」、「社長が横柄だ」、「働かせすぎだ」)など)、法的な権利侵害と認められず、開示請求が認められない可能性があります。法的要件を満たしているかを慎重に検討しなければなりません。
弁護士に相談するメリット
⑴ 成功率の向上
発信者情報開示請求は専門的な知識と経験を要するものであり、サイト管理者や経由プロバイダによっても対応が異なるため、弁護士の専門的な知識経験が不可欠です。また、弁護士の誰もが発信者情報開示請求に精通しているわけでもありません。発信者情報開示請求に精通している弁護士に依頼することによって、成功率が格段に向上します。
⑵ 手続きの効率化
前述のとおり、発信者情報開示請求は、裁判手続きを複数回行う必要があり、また、裁判所とのやり取りに多大な労力と専門知識を要します。弁護士が代理人となることで、これらの複雑な手続きに対応し、企業の担当者様の負担を大幅に軽減し、本業への影響を最小限に抑えます。
⑶ 開示請求後の損害賠償請求まで対応可能
発信者を特定した後、最終的な目的は企業が被った損害の回復・投稿者による再発防止です。特定後の損害賠償請求訴訟や、再発防止のための示談交渉についても、引き続き弁護士が一貫して対応します。特定後の法的責任追及までを見据えたサポートが可能です。
さいたまシティ法律事務所では、発信者情報開示請求を長く手掛けており、サイトやプロバイダごとに応じた対応が可能です。発信者情報開示請求の件で検討されている企業様は、ぜひさいたまシティ法律事務所までご相談ください。

Last Updated on 2025年12月8日 by roumu.saitamacity-law
![]() この記事の執筆者:代表弁護士 荒生祐樹 さいたまシティ法律事務所では、経営者の皆様の立場に身を置き、紛争の予防を第一の課題として、従業員の採用から退職までのリスク予防、雇用環境整備への助言等、近時の労働環境の変化を踏まえた上での労務顧問サービス(経営側)を提供しています。労働問題は、現在大きな転換点を迎えています。企業の実情に応じたリーガルサービスの提供に努め、皆様の企業の今後ますますの成長、発展に貢献していきたいと思います。 |





