団体交渉における対応の仕方・話し方とは?

Contents
  1. 1 企業側の団体交渉とは?
  2. 2 団体交渉の流れ
  3. 3 団体交渉における企業側の話し方のポイント
  4. 4 団体交渉の進め方のポイント
  5. 5 労働組合の発言・対応に対する対処法
  6. 6 団体交渉の従業員にとってのメリット
  7. 7 団体交渉の企業側のデメリット
  8. 8 団体交渉を弁護士にするべき理由

1 企業側の団体交渉とは?

団体交渉とは、労働者が団結して、多人数で使用者側と労働条件などについて話し合うことです。

 憲法28条では、労働者に対して団体交渉権(団体行動権)を保障しています。これは、労使間での対等な交渉を促すことにより、使用者による労働者の搾取を防ぐためとされています。

企業にとって必ず理解しなければならないことは、労働者側から団体交渉の申入れを受けた場合、使用者側は正当な理由なく団体交渉を拒むことはできない、ということです。「正当な理由なく」とありますが、事実上(実際のところ)拒否できるものではありません。前述のとおり、団体交渉権は憲法で定められた労働者の権利だからです。

もっとも、労働組合は多くの方にとってイメージしにくいものだと思います。中小企業において、自社で労働組合が結成されているケースは稀でしょう。一方で、近時は合同労組やユニオンなど、個人でも加入できる外部の労働組合が増えており、団体交渉を申し込まれるのも、こういった外部の労働組合がほとんどです。

団体交渉の申し入れがあった場合、使用者側として「初めて」対応する、ということであれば、その対応には苦慮するかもしれません。しかしながら、「初めてだから」、「経験がないから」、という言い分は通用しません。使用者として、労働組合法や労働基準法などの労働法規を踏まえ、真摯かつ毅然と対応する必要があります。

2 団体交渉の流れ

労働組合が団体交渉を要求する場合、「団体交渉申入書」という書面を会社側に提出することによって始まることが通例です。申入書には、組合側の要求内容とともに、団体交渉開催にあたっての日程調整を早急に行うよう求める内容が記載されています。

初めて団体交渉の申し入れを受けた場合、驚き、一体何をどうすればよいのか判断に迷うと思われます。一方で、団体交渉権は憲法で定められた労働者の権利であることから、使用者は、労働組合から団体交渉の申し入れがあった場合には、それに応じなければなりません(団体交渉義務)。使用者が団体交渉義務を果たさない場合、団体交渉拒否の不当労働行為(労働組合法7条2号)が成立し得ます。

したがって、使用者側は、団体交渉に応じることを前提として、焦らずに、団体交渉に向けた準備を進めることが必要になります。

3 団体交渉における企業側の話し方のポイント

団体交渉に臨むにあたり、団体交渉は通常の「交渉」とはまるで異なるものであることを理解する必要があります。団体交渉の申し入れがなされているということは、労働組合側は、使用者側に労働法上の問題があるとある程度確信をもって臨んでいるということになります。勿論、組合側の主張が必ずしも全て正しいとは限りませんが、少なくとも使用者側としては、組合の要求に対する具体的な回答が求められます。したがって、使用者側が「それはおかしい」、「そういうつもりではなかった」といった曖昧な回答ですまされるものではないため、事前にどのような回答をするか、入念な準備が必要です。その上で、団体交渉本番での話し方について、以下の点に留意するとよいでしょう。

⑴発言者を事前に決めておく

団体交渉は、使用者側から複数名で参加するケースが通例かと思われますが、出席者の役割を決めずに自由に発言すると、発言者で回答内容に微妙な違いが生じたり、結局何を伝えたかったのかわからないといったことがあり、組合側から「会社の意見が統一されていない」、「何を言いたいのかわからない」、「誠実な回答がされていない」といった形で非難されることがあります。

また、非難されるだけでなく、早い段階で団体交渉の主導権を組合側に握られ、会社の意思を正確に伝えることができない、といった事態も考えられます。会社の意思を明確に伝えるために、誰が、何について発言を行うのか、事前に決めるべきです。

⑵誠実に交渉する

前述のとおり、使用者は、労働組合から申し入れられた団体交渉について「誠実」に交渉することが義務付けられています。形の上では団体交渉に応じながら、不誠実な態度を取る場合も不当労働行為に該当するとされています(東京高判平成20年3月27日労判963号32頁)。不誠実な交渉の具体例としては、労働者側の話だけ聞くといったスタンスに終止する、交渉権限のない者を出席させる、一般論の説明に終止する、組合の要求に対する回答・資料提示などが不足している、といった場合などです。これらの対応が不誠実と評価され、誠実交渉義務に違反し、不当労働行為に該当すると判断される可能性があります。したがって、使用者側として、組合の要求に応じる余地のないケースであっても、その理由について、具体的に説明する必要があります。

⑶安易な発言はしない

団体交渉においては、労働組合から強い要求がされることは度々ありますが、よく検討することもなく、その場限りの「はい」、「わかりました」といった発言は絶対に避けるべきです。労働組合は団体交渉を全て録音していますので、安易な発言をすると、後で必ず持ち出されます。

労働組合側の強い要求に対し、その場をおさめるために安易な返事をすることは絶対に避けなければなりません。もしそこで「はい」、と言ってしまったら、「あの「はい」はそういう意味ではなかった」といった弁解は通用しません。どうしても、回答が難しい質問があった場合は、持ち帰って検討すると伝えて下さい。

⑷その場で約束しない

都度の団体交渉が終了した場面で、労働組合側から「議事録」、「覚書」といった書類に署名押印を求められる場合があります。団体交渉は通常2時間程度で開催されるものですので、誰が何を話したか、何を決めたかについて、組合側が書面で確認しておきたいという意向を持つのはもっともなことです。ただ、使用者側としては、その場で内容を見せられて、確認することは難しい場面も想定されるため、労働組合から署名押印を求められてもその場で署名押印はせずに、社内に持ち帰り内容を確認したうえで署名押印をするかを検討するべきです。

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団体交渉でやってはいけない3つのポイント

4 団体交渉の進め方のポイント

⑴前述のとおり、ほとんどの団体交渉では、労働組合側(特に、合同労組(ユニオン)の役職者や上部団体の参加者)がリードして議論を進めていくことになります。使用者側がイニシアティブを取って話を進めた、という交渉に遭遇したことはありません。したがって、団体交渉のほとんどの時間は、労働組合側の要求に対して企業側がどう対応するか、という点に割かれます。

しかし、労働組合側の要求から始める交渉であるとはいえ、議論をすべてリードされていては、組合の意向に沿って進行し、思いもよらない不利益を受けるおそれがあります。そこで次に、団体交渉をどのように進めていけばよいか、団体交渉の進め方(進行方法)のポイントを解説します。

⑵団体交渉申し入れ書の内容をよく検討し、本番に臨むこと

企業側がまず、必ず検討すべきことは、「労働組合の申入れに応じるかどうか」、「労働組合の要求を受け入れるかどうか」です。具体的には、使用者側は「労働組合の要求」を特定し、その是否を検討することになります。裏を返せば、あらかじめ明らかになっている労働組合の申し入れについて事前によく検討し、会社としてどう対応するか、概ねの回答を用意しておく必要です。言うなれば、団体交渉は、申し入れ書が届いた時点で始まっていると言って過言ではありません。

⑶粘り強く交渉を続ける

団体交渉での話し合いを行うとき、企業側は途中であきらめてはなりません。例えば、パワーハラスメントが問題となっている場合、企業側がはパワハラには該当しないと考えていても、組合側から法律や厚労省の指針を持ち出され、パワハラの成立について説得を受けることがあります。パワハラについて第三者が成立するとの判断を示している訳ではない以上、組合側から説得を受けたからといって、使用者側が労働組合の要求を受け入れる必要は必ずしもありませんが、厳しい説得を受けたことによって途中で投げやりになり、会社側の非を認めるようであれば、団体交渉は労働組合の有利に進みます。

会社側に非があることが明らかであれば、勿論、法的に照らした対応が求められますが、使用者側として判断に迷う場合は、回答を保留して持ち帰って検討をしたり、団体交渉の回数を重ね、議論を続けることで、双方納得のいく内容での解決を目指すことになります。

⑷場合によっては平行線での決着もやむを得ない

団体交渉は、話し合いの場ですから、コミュニケーションは双方向となるのが基本です。決して、労働組合が一方的に会社の責任追及をしたり、糾弾して追い詰めたりする場ではありません。

しかし、組合の中には、一方的に要求を突きつけ、発言は組合からの質問に回答するだけにするよう強く求めてくる団体もあります。労働組合の要求に不明確な点、疑問点があるときは、使用者側からも組合側に対して質問することで、団体交渉における話し合いをより実益のあるものにすることができます。

5 労働組合の発言・対応に対する対処法

⑴「不当労働行為として救済命令の申立てを行う」

団体交渉の誠実交渉義務に反するとされると、「不当労働行為として救済命令の申立てを行う」(労働組合法7条2号)といった発言がなされる場合があります。これまで述べてきた内容に留意して対応している限り、直ちに誠実交渉義務違反とされるものでもありませんが、組合側の要求に対する回答が不十分であったり、議論を経ないまま団体交渉を打ち切ってしまうと、誠実交渉義務違反となることも考えられるため、十分に留意する必要があります。

⑵「労働基準監督署に告発する」

労働組合からの労働基準監督署への告発(告発というかどうかは別として)をきっかけに、労働基準監督署が会社への立入調査などを実施することがあります。その結果、労働基準法や労働安全衛生法などの法律に会社が違反していることが認められた場合、労働基準監督署からその是正を求められることがあります。一般的には、会社が労働基準監督署から指摘された法律違反の状態を是正し、または、求められた報告などを遵守している場合は、刑事罰などの厳しい処分が選択されることは滅多にありません。

⑶「社長を出席させろ」

団体交渉に社長が出席しない場合、組合から「どうして社長が出席しないんだ」、「不誠実団交だ」といった指摘を受けることがあります。団体交渉には会社から団体交渉の件について権限を与えられた者が参加すればよく、社長が出席しなくても必ずしも問題となるわけではありません。労働組合から上記のような発言があった場合は、「私は、貴組合との団体交渉に関することを会社から一任されておりますので、今後も団体交渉に社長は出席する予定はございません」と返答しましょう。

⑷「ばか」、「頭がおかしい」などの人格否定発言

ここまでの発言がなされるケースは、最近ではあまり聞きません。しかし、どのような場面であっても、個人の人格を否定する発言が許されることはありませんので、「個人の人格を攻撃するような発言は慎んでください。そのような発言が今後も続くようであれば、交渉を打ち切らせてもらいます。」と回答しましょう。また、後日、労働組合に対してそのような暴言を慎むように申し入れるとともに、仮にその後も組合の態度が改善されない場合には、団体交渉を打ち切らざるを得ない旨を伝えるべきです。

⑸法的根拠のない一方的な要求

使用者は団体交渉において誠実に交渉を行う義務は負っていますが、法的に根拠のない要求を受け入れる義務は負っていません。使用者としては「会社はそのような法的義務を負っていませんので、お断りします」と明確に回答しても問題はありません。

⑹交渉義務を負わない事項に関する要求

使用者が団体交渉を行わなければならないのは「従業員の待遇ないし労働条件と密接に関連性を有する事項」、あるいは「労働条件その他の待遇、当該団体と使用者との間の団体的労使関係の運営に関する事項」であって、使用者において対応可能なものです。使用者は、会社に関するおよそあらゆる交渉に応じなければならないわけではありません。そういった要求がなされた場合、使用者としては「話し合いに応じることができません。その事項はそもそも団体交渉義務の範囲内ではありません」と回答するべきです。

⑺事前に連絡されていない事項についての質問に対して

事前に知らされない質問については持ち帰って検討することも許されます。しかし、当然想定されるはずの質問や、企業として回答が可能であると想定される内容にもかかわらず、まで逐一持ち帰って検討するという対応は、単に引き延ばしているとされ、誠実交渉義務に反し不当労働行為と評価される可能性がありますので注意が必要です。

6 団体交渉の従業員にとってのメリット

⑴希望する労働条件等を実現できる可能性がある

団体交渉を行った結果として、使用者が現状を見直し、従業員が希望していた労働条件等が実現する可能性があります。団体交渉は、使用者が、普段目が行き届かないところを見つめ直す機会でもあり、従業員にとって働きやすい環境が整備されれば、団体交渉の意義があると言えるでしょう。

⑵普段言えないことを言うことができる

従業員は、何かしらの不満を抱えていたとしても、1対1などの少人数では言いにくいこともあるかと思います。また、日々業務に専念していたら、意見を述べる機会も中々ない、といったこともあるでしょう。団体交渉という正式な場で、かつある程度の集団であれば、普段言えないことを言いやすい状況になります。

⑶会社の実情等を把握できる

団体交渉の内容にもよりますが、質問した事項の回答内容により、会社の実情なども把握できる可能性があります。場合によっては、経営陣の考え方、会社への思いなども知ることができる可能性があります。

7 団体交渉の企業側のデメリット

⑴時間と労力がかかる

団体交渉は解決まで長期化するリスクがあり、時間と労力がかかり、経営に専念することが難しい状況になり得ます。

⑵多額な出費もあり得る

団体交渉の場を外部の会議室に設定してその会議室代を会社が負担している場合、団体交渉が何度も行われたケースでは、会社がそれだけ負担することになります。

⑶従業員との雰囲気が悪くなる

本来、会社と従業員は協力し合って目標達成を目指すことが理想です。しかし、中々まとまらない団体交渉をしている期間は、会社と従業員との間で険悪な雰囲気になってしまうことがあります。

8 団体交渉を弁護士にするべき理由

⑴弁護士による団体交渉対応

前述のとおり、使用者は誠実交渉義務があり、対応を誤ると不当労働行為に該当する可能性もあるため、団体交渉の申し入れがなされた段階においては、すみやかに弁護士の助言・関与を求めるべきです。団体交渉に弁護士を同席させることについては賛否両論あるようですが、団体交渉は、使用者側にとってはいわゆる「正論」を述べただけに過ぎないものであっても、場合によっては不当労働行為になりかねないものです。このように、団体交渉に対応するためには、緻密な戦略の立案が求められることから、労働法に精通した弁護士の関与することが望ましいでしょう。

⑵弁護士に依頼するメリット

前述のとおり、団体交渉では労働法に基づいた対応が求められることは勿論、使用者側は常に不当労働行為のリスクに晒されることとなるため、団体交渉の経験が豊富な弁護士の関与は不可欠です。弁護士が関与することにより、団体交渉期日の対応や見通しについて助言を得ることができるため、大きなメリットがとなります。

さいたまシティ法律事務所が団体交渉に関与する場合、原則、顧問契約の締結を推奨しております。労使交渉は長期間に渡る対応が必要となる場面が多く、その時点における課題については解決に至った場合でも、今後同様の紛争が生じないように対応を施すことにより、以後同様の問題が生じないように支援をさせて頂くことが可能となります。

Last Updated on 2024年10月15日 by roumu.saitamacity-law

この記事の執筆者:代表弁護士 荒生祐樹

さいたまシティ法律事務所では、経営者の皆様の立場に身を置き、紛争の予防を第一の課題として、従業員の採用から退職までのリスク予防、雇用環境整備への助言等、近時の労働環境の変化を踏まえた上での労務顧問サービス(経営側)を提供しています。労働問題は、現在大きな転換点を迎えています。企業の実情に応じたリーガルサービスの提供に努め、皆様の企業の今後ますますの成長、発展に貢献していきたいと思います。

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